実は後悔していない!ラブラドゥードルは本当にパンドラの箱を開けられたのか?

ラブラドゥードル パンドラの箱 ブリーダーについて
ラブラドゥードル パンドラの箱

「パンドラの箱を開けてしまった・・・」翻訳に悪意?

「ラブラドゥードルは失敗だった」「生みの親が後悔している」「病気が多く精神的にも不安定」「パンドラの箱を開けてしまった」「ミックス犬がダメな一例」。

こんな話を聞いたことがあるかもしれません。でも、本当にそうなのでしょうか?

実は、英語のおおもとの記事を読んでみると、

日本語で広まっている「ラブラドゥードル = 遺伝的にダメ!!」というイメージとは、微妙にニュアンスが違うのです。

MIX犬の是非に対しての議論でよくあがる「ラブラドゥードルの遺伝性疾患」。

そこで今回は、ラブラドゥードルの誕生と、その後に何が起こったのかを改めて整理してみます。

ラブラドゥードルとは?
ラブラドールレトリバーとスタンダードプードルのMIX犬です。プードルの毛の抜けづらい性質を取り入れることによって、「犬アレルギーでも飼育できる盲導犬を生み出す!」、という名目で生み出されることになりました。

その生みの親が、オーストラリアのウォーリー・コンロン氏です。オーストラリア王立盲導犬協会の繁殖マネージャーとして働いていました。


「後悔」の本当の意味

ラブラドゥードルを生み出したウォーリー・コンロン氏は、確かに「後悔している」「パンドラの箱を開けてしまった」「遺伝上の問題がある」と発言しています。

しかし、それは「ラブラドゥードルを作ったこと」に対する後悔ではどうやらなさそうです。

むしろ、ラブラドゥードルのブリードに協力したジョン・ゴサージ氏は「ぜんぜん後悔していない」「非常に素晴らしいものになりました」と明言しており、当初の目的だった「盲導犬としての適性」と「アレルギー対策」の両立には成功したというのです。

では、コンロン氏は何に後悔しているのでしょうか?

それは、「ラブラドゥードル」という名前をつけたことからはじまった悲劇に対してです。


名前をつけた瞬間、すべてが変わった

当初、犬アレルギーでも飼育できる盲導犬の可能性を探るためにラブラドゥードルを生み出したコンロン氏。しかし、「雑種の犬なんて」と言わんばかりに一向に見向きされませんでした。

そこで、『アレルギーを起こしません!「ラブラドゥードル」という犬種です!』とメディアで宣伝することになりました。

すると、ラブラドゥードルと名前がついた瞬間から爆発的な人気を引き起こしたのです。その人気は視覚障がい者のコミュニティだけではなく、世界中から問い合わせがありました。


その後、商業的な乱繁殖が始まったのです

ブリーディングの質を考えず、ただ人気に乗じて繁殖を繰り返す人々が増えたことにより、健康に問題のある個体が増えてしまいました。コンロン氏が後悔しているのは、この商業的な人気による「無秩序な繁殖」が広がってしまったことなのです。

コンロン氏が実際に語った原文の翻訳をそのまま記載いたします。

『ウォーリー・コンロン氏は、メディアの騒ぎの中で、ラブラドゥードルに対する気持ちが変わり始めたと言います。

「数日のうちに自分が何をしたのか気づいたのです。」プロの犬のブリーダーであるワリーさんは、自分の最大の関心事は常に最も健康な子犬を繁殖させることだったが、「流行に乗った」多くのラブラドゥードルのブリーダーにとっては結局そうではなかったと考えている。

「これらの非倫理的で冷酷な人々がこれらの犬を繁殖させて高値で売る目的だと気づいた」とウォリーは言う。

ラブラドゥードルの人気は圧倒的で、ウォーリー・コンロン氏は採用されている繁殖プロセスの質についてますます懸念するようになりました。30年経った今でも、そのことが彼を悩ませています。

「パンドラの箱を開けて、フランケンシュタインの怪物を解き放った」と彼は言う。

「外出中にこのラブラドゥードルを見ると、思わず心の中で思い出してしまいます。
私は、股関節形成不全があるだろうか、肘に問題があるだろうか、他に何か問題があるだろうかと考えながら見ています。」』

つまり、あくまでも乱繁殖によって健康が保証されない犬質についての後悔が述べられています。

実際にコンロン氏が生み出したラブラドゥードルは、遺伝性疾患がでないように親犬を選んだことも原文には記載されていました。

一緒にブリードしたジョンは、後悔していない

そして、誰もがコンロン氏のように後悔をしている訳ではありません。共にブリードを行ったジョン氏は、これは良い展開だと捉えました。

実際、ラブラドゥードルは非常に素晴らしいものになりました。全然後悔してないよ。」と回答しています。

元祖ラブラドゥードルの盲導犬サルタンは、非常に評価の高い盲導犬として活躍し、引退の時期を迎えた飼い主は、誰に引き取ってもらうか決めるのに苦労したほどだったそうです。

また、犬の遺伝学研究者であるヘクマン博士は、ラブラドゥードルは爆発的な人気を誇る数多くの犬種のうちの一つに過ぎないとも語っています。

「プードルをあらゆるものに交配させている人は確かにかなりいる。そして必ずしもそれが賢明な方法ではないかもしれないが、犬に対する飽くなき需要に応えようとする人は常に存在していたというのが私の考えだ。」

そもそも本当に病気が多いのか?

日本語に訳されたCNNでは、

『コンロン氏によると、ラブラドゥードルの多くは精神に異常をきたしている遺伝上の問題を抱えており(股関節形成不全)、健康な子犬が誕生する例は「ごくわずか」だという。』

このように綴られています。
本当にそうでしょうか?

股関節形成不全はどれぐらい多い?

残念なことにラブラドゥードルだけではなく、多くの大型犬で股間接形成不全の発症が確認されています。その中でも親犬であるラブラドールレトリバーは股関節形成不全の発病率が非常に高いのです。
日本の場合、その発病率は47%もあります。

つまり、この股間接形成不全という病は、ラブラドゥードル特有の課題ではなく、ラブラドールレトリバーを含めたゴールデンレトリバー、ジャーマン・シェパード、シベリアンハスキーなどの多くの大型犬の課題であり、ミックス犬だから発症した訳ではありません。

コンロン氏もこの観点を考慮しブリードしています。ラブラドールレトリバーの遺伝性疾患を考えず乱繁殖を行えば、ラブラドゥードルもおのずと股間接形成不全の発病率は高まります。

股間接形成不全は遺伝と環境の双方の理由から発病することが分かっていますが、現在遺伝子の特定はできていません

ペットの実家では繁殖前に遺伝性疾患に気付けるようになるために、遺伝子検査会社と提携し、売上の一部を遺伝子の特定の研究費に充てています。

精神に異常をきたしている?

「精神的に問題がある」とも綴られていますが、これは翻訳のニュアンスの違いが影響している可能性があります。

“I find that the biggest majority are either crazy or have a hereditary problem. “


直訳すると、「大多数は精神に異常をきたしているか、遺伝的な問題を抱えているかのどちらかだと私は思います。」となります。

しかし、“crazy” という言葉で「精神疾患がある」と断定的に訳すにはかなり強すぎる表現です。この場合、「興奮しやすい」「落ち着きがない」「手に負えない」という意味で使われていたのではないでしょうか。

特に犬の性格について話すとき、“crazy”「過剰にエネルギッシュ」「制御が難しい」などの意味で使われることが多いです。そのため、コンロン氏は「精神疾患がある」とまで言いたかったわけではなく、「落ち着きがなく手に負えない個体が多い」と言いたかったのではないでしょうか。

実際にラブラドゥードルに関わらず、乱繁殖によって生まれてくる犬たちは親の性格やしつけの差から飼育しづらくなることがあります。



また、プードルは前足を浮かせて後ろ足で立ち、ウサギのように高く飛ぶような動きをします。スタンダードプードルの個性を引き継ぐ大型犬のラブラドゥードルが、高く飛び、かつエネルギッシュな性格であれば確かに盲導犬には適さない場合もあったのでしょう。

ラブラドゥードル パンドラの箱

さいごに 乱繁殖こそが問題

これらのような乱繁殖への課題は、ラブラドゥードルに限った話ではありません。どんなミックス犬でも、純血種でも、無計画に繁殖をすれば健康リスクは高まります。

本当に大事なのは、「ラブラドゥードルだからダメ」「ミックス犬だからダメ」と決めつけることではなく、「どうすれば健全な繁殖ができるのか」を考えることではないでしょうか?

今回の話を通じて、ラブラドゥードルに対するイメージが少しでも整理できたら嬉しいです。

文献
最初のラブラドゥードルはデザイナー犬ではなく、盲導犬だった
「怪物解き放った」、ラブラドゥードルの生みの親が後悔表明
日本動物遺伝病ネットワーク
株式会社VEQTA